印鑑廃止の流れに、企業の経理担当者はどう取り組むべきか?

著者:須栗 一浩(税理士)

印鑑廃止の流れに、企業の経理担当者はどう取り組むべきか?

本では、これまで印鑑が重要な役割を果たしてきました。個人では実印・認印・シャチハタが、会社では代表取締役印(実印)・ゴム印・銀行印・角印・訂正印など、いろいろな種類の印鑑が様々なシーンで使われてきました。

しかし、2020年に入り在宅勤務が進んだ事により、脱印鑑の流れが加速しました。今後、印鑑は全廃となるのでしょうか?

今回は、企業での印鑑廃止について考えてみましょう。

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この記事の目次

    会社での印鑑の役割

    会社での押印はどんなものがあるでしょうか。
    「さまざまな契約書への押印」「税務署等へ提出する申告書への押印」「請求書に押す角印」「経費精算の書類に押す確認印」「収入印紙の消印」「銀行通帳の銀行印」「荷物の受取り印」など、いろいろなシーンでハンコは使われています。

    印鑑の役割は、確認・承認したことの証明として書類へ押印することです。例えば契約書への押印は「確かに内容を確認しました。承認します。」という意味を持ちます。その他の書類への押印も、この意味を持つものがほとんどです。
    では、押印シーンについて考えてみましょう。

    契約書の押印

    会社間での委託業務契約書への押印は、トラブル発生の時に重要な役割を果たします。
    契約時には、契約内容を確認・承認して取引を開始します。例えば不動産の売買契約書は、実印の押印と印鑑証明書の提出によって、契約書の記載通りに役所の不動産登記の変更を行うことができます。

    収入印紙の消印

    収入印紙の消印は、貼り付けた収入印紙を使用済みにして再使用できなくする役割があります。使えなくすることが目的なので、押印する印鑑の種類は問いません。

    銀行取引のための銀行印

    銀行取引を開始する際、銀行印を銀行へ届け出て、それ以降に所定の用紙に届け出印を押すことで、現金の引き出しや振込みの手続きを行うことができるようになります。銀行印は実印などと同じく唯一の印鑑になるので、届け出印を使うことで会社に出金の意思があるという証明になります。

    帳簿の訂正印

    今は手書きの帳票をほとんど見かけることが無くなったため、訂正印を見ることは無くなりました。しかし平成の初めころまでは帳簿の記載を間違えた際に訂正するための印鑑として使用していました。帳票の訂正箇所に押印するため、他の記載箇所とかぶらないように認印と比べても小さいのが特徴です。誰が訂正したかを確認する意味があるため、個人名であることも特徴です。

    印鑑のメリットとデメリット

    以上のようにいろいろな用途に使用している印鑑ですが、印鑑の種類ごとにメリットとデメリットはどんなものがあるでしょう。

    メリット

    手軽で簡単

    シャチハタと呼ばれているインク内蔵スタンプ型の印鑑は朱肉が必要ないため非常に便利で、荷物の受け取り印や訂正印などはこの印鑑を使っていることが多いでしょう。
    認印は変形しないように材質が固いものを使うため、多くの公式な書類に使われます。
    三文判はその名の通り値段は安く、実印の必要がない時の印鑑として広く普及しています。
    実印は大きさや印影の決まりがあり、その決まりに従って作成し、個人の場合には市区町村の役所へ、法人の場合には法務局へ実印登録をします。登録のある役所へ印鑑証明書を請求するとその場で発行してもらえます。
    どの印鑑も一度作ってしまえば長く使うことができ、朱肉などを使って書類等に押印するだけなので手軽です。

    確認者の名前を残す事ができる

    印鑑は名前が入っているので、名入りの印鑑を押すことで誰が確認して押印したかなどがわかることがメリットの一つです。例えば経費の精算をするときの精算書に確認印として個人名の入った押印をすることで、誰が内容の確認と精算の承認したのかを確認することができます。

    銀行印や実印など、唯一の印鑑として押印を証明できる

    銀行印は銀行へ、実印は役所へ登録することで、登録後は確認書類などを提出することなく押印するだけで目的を果たすことができます。
    現在は預金通帳に銀行印の印影を残すことは無くなっており、通帳にどんな印鑑が登録されているかが分かりません。現金の引き出しや振込みをするときには銀行印をもって銀行へ行けば本人の証明になります。 また、契約の際に実印と印鑑証明書を持っていることが本人の証明になります。この実印を契約書に押印することで正式な契約書が完成します。

    デメリット

    認印は安価で同じものが大量に存在する

    認印は100円ショップでも購入することができ、プラスティック製で大量生産されているため、多い苗字の認印は同じ印影の印鑑が世の中に多く存在しています。そのため、認印で押印したことでは証明にはならなくなっています。

    シャチハタは公式な書類に使用できない

    シャチハタは材質が柔らかく印影の形が変わってしまうため同じ印鑑であるという証明がしにくく、公式な書類に使うことはできません。実印としての登録もできません。

    実印も偽造が可能

    法律的に違法ですが、実印も3Dプリンターによって複製が可能といわれています。実印として同じ印鑑が作られてしまうと、唯一の印鑑ではなくなってしまい詐欺行為に使われてしまう可能性もあります。

    本人がその場にいないと押印が出来ない

    コロナ禍のもとでテレワークを妨害してしまったのは、会社内での確認印制度でした。押印をするには会社へ出社する必要があり、認印で押印をするために出社しなければならないことが社会問題にまでなりました。

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    印鑑の省略がすでに進んでいる分野

    行政文書

    登記書類以外の行政書類の押印制度はほとんどを廃止する方向で行政改革が進んでいます。婚姻届や離婚届も、認印の押印だけで届け出が可能だったためこのような押印は今後なくなっていくでしょう。

    銀行の届け出印

    銀行印の届け出が省略された銀行口座も登場しています。WEB上でIDとパスワードを入力することで銀行取引を行える仕組みになっています。ただ、届出印がないため書面による自動引き落としの手続きが取れないケースもあります。

    命保険

    生命保険に加入する際の届出印が省略されている保険会社もあります。WEB上で手続きを行うか、保険金請求の際には本人を確認する証明書のコピーなどを添付します。

    税務書類(e-Tax)

    国税庁が運営する国税の申告・申請・納税のシステム(e-Tax)や地方税のeLTaxは、申告書や申請書を電子送信の際に本人の電子認証を付けます。紙の書類が存在しないため印鑑の押印はありません。

    システム導入で省略可能な印鑑

    書類確認印

    クラウド上で契約書を相互に確認し認証することで、契約書の紙発行を省略できるサービスがあります。これで押印を省略できるとともに、契約書に収入印紙の貼付も必要ありません。

    請求書への押印

    請求書発行システムを導入して、電子請求書に電子印を押印するようにすれば、紙への押印作業が不要となります。(そもそも請求書に印鑑は不要ですが、日本の商習慣としては押印する事が一般的です。)

    関連記事:請求書に印鑑は必要?印鑑の種類や電子印鑑の法的効力についても解説

    電子請求書発行システムは「楽楽明細」が便利です。シンプルで使いやすく、サポートも充実している為、システム導入も容易です。郵送のための印刷や袋詰めなどの単純作業を無くすことができるため、経理業務の生産性向上にも役立つでしょう。

    実印と電子認証

    最近は実印に変わり、ICカードなどによる電子認証が使われる機会が増えつつあります。この先、電子認証のために必要になるのがマイナンバーカードです。今年よりマイナンバーを使った年末調整の電子化も始まっており、数年内に採用する企業も増えてくるでしょう。

    まとめ

    脱印鑑は国をあげての政策になっており、今後急速に進むことは間違いありません。

    例えば、国税電子申告・納税システムいわゆるe-Taxは、すでにほとんどの税理士がこのシステムを使って申告書を提出しており、2020年4月1日以降、大企業はe-Taxの義務化が始まっています。e-Taxは、申告書や申請書への押印が無くなるだけでなく、納税もネットバンク経由で簡単に行うことができます。

    また、クラウド型システムの導入で、経理業務の脱印鑑・ペーパーレス化を進めることができます。脱印鑑の第一歩として、まずは請求書発行の電子化・ペーパーレス化をしてみてはいかがでしょうか?

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