監修者:川口 拓哉(税理士)
長年にわたって経理を担当している方でも、領収書の管理や保管について完璧に把握している人は少ないかもしれません。保存する書類の種類や対応する法律により、保管年数は異なります。また、領収書は税務調査があったときに証拠書類として提示しなければならないため、適切な管理が必要です。
本記事では、領収書の保管・管理方法を法律面から解説し、電子帳簿保存法にも対応した有効な方法とメリットについてご紹介します。
法律上、法人や個人事業者には領収書を保管しておく義務が課せられています。そのため、保管場所や管理方法を工夫するなど、紛失のリスクをできるだけ減らそうと気を遣っている経理担当の方が多いかと思います。領収書の金額等にかかわらず、領収書を粗雑に扱って紛失等を起こせば、後の税務調査で問題となりかねません。ここでは、主に「税法」という税金の法律に照らし合わせながら、領収書の管理と保管方法について解説します。
自社が発行した領収書の控え・写しは、法人税法における帳簿・書類の保存義務に照らして、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間保管する義務があります。
法人税法における「帳簿」と「書類」は以下が該当します。企業によっては一部の帳簿や書類が存在しないこともあるでしょうが、存在しない帳簿や書類については当然ながら保管義務はありません。
帳簿 | 総勘定元帳・仕訳帳・現金出納帳・売掛金元帳・買掛金元帳・固定資産台帳・売上帳・仕入帳など |
---|---|
書類 | 棚卸表・貸借対照表・損益計算書・注文書・契約書・領収書など |
法人と個人事業主に課せられている帳簿や書類等の保存義務は次のとおりです。
法人or個人 | 分類 | 保存義務が課せられている書類等 | 保存期間 |
---|---|---|---|
法人 | 欠損金の繰越控除を受けたい青色申告法人 | 帳簿、書類 | その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から10年間 |
法人 | 上記以外の法人 | 帳簿、書類 | その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間 |
個人 | 青色申告者 | 帳簿、決算関係書類、現金預金取引等関係書類 | その年の確定申告書の提出期限の翌日から7年間 |
個人 | 青色申告者 | その他の書類 | その年の確定申告書の提出期限の翌日から5年間 |
個人 | 白色申告者 | 収入金額や必要経費を記載した帳簿 | その年の確定申告書の提出期限の翌日から7年間 |
個人 | 白色申告者 | 業務に関して作成した上記以外の帳簿、書類 | その年の確定申告書の提出期限の翌日から5年間 |
なお、青色申告者である個人における「帳簿」、「決算関係書類」、「現金預金取引等関係書類」、「その他の書類」の例示は次のとおりです。
帳簿 | 仕訳帳・総勘定元帳・現金出納帳・売掛帳・買掛帳・経費帳・固定資産台帳など |
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決算関係書類 | 損益計算書・貸借対照表・棚卸表など |
現金預金取引等関係書類 | 領収証・小切手控・預金通帳・借用証など |
その他の書類 | 契約書・納品書・見積書・送り状 |
また、白色申告者である個人における「書類」の例示は次のとおりです。
書類 | 決算に関して作成した棚卸表その他の書類・業務に関して作成し、または受領した請求書・納品書・送り状・領収書など |
---|
仕入税額控除を受けるためには、消費税法という法律に定められている保存要件を満たさなければなりません。課税仕入れ等の事実を記載した帳簿と請求書等の保管期間は7年です。また、法人と個人の区別や青色申告と白色申告の区別もないため、課税事業者であれば同じ帳簿書類の保存方法となります。これは、改正電子帳簿保存法においても同じ取り扱いになります。
領収書の管理や整理、保管期限などについては、法人であれば法人税と消費税、個人事業主であれば所得税と消費税に関する法律で決められています。それらの法律を遵守する、ということに加えて、領収書を管理・整理する目的はもうひとつあります。それは、税務調査に備えて取引の証拠を残しておくことです。税務調査では対象期間の書類を税務署の調査官がチェックしますが、このチェックに対応できる書類の管理と整理が必要になります。
税務調査はいつ来るかわかりません。これは、法人でも個人でも同じです。ある日突然、電話で税務調査を実施する旨が告げられます。調査対象期間は概ね3年ないし5年ですが、5年前のことを税務署の調査官に尋ねられても記憶は曖昧でしょう。この点、保管されている領収書を見れば、誰にいつ何円の金額をどのような名目で支払ったかがわかるため、領収書を経費の証拠として提示することができます。また、領収書がないと消費税の仕入税額控除を受けることができなくなるケースもあります。そのため、税務調査に耐えるためにも、領収書はきれいに整理されていること、管理体制が整っていることが重要です。万が一、「偽りその他不正な行為」によって税金の過少申告等があると認められた場合は、さらに2年分の税務調査が実施される可能性もあるのでご注意ください(国税通則法70条5項)。
領収書の管理方法には、大きく分けて「紙で管理する方法」と「電子データで管理する方法」の2つがあります。紙で管理する方法は、従来からどこの事業者も取り入れている方法です。しかし、昨今は改正電子帳簿保存法の影響により、電子データで管理する方法が急速に進んでいます。ここでは、これら2つの管理方法について解説しましょう。
領収書を紙で管理する 代表的な方法に、「ノートやスクラップブックに添付して保管」というものがあります。領収書は取引先ごとや月別にファイリングするという、昔からよくある書類の保管方法です。通常、領収書は月ごとに取引日順に貼付しているのが一般的です。中には、1か月分の経費ごとにページでまとめて貼付しているケースもあるでしょう。
紙で保存する場合、会計帳簿(会計ソフトに入力している仕訳)から領収書が見つけられること、逆に領収書から該当している仕訳が確認しやすいように管理することが重要です。整然と管理することによって、領収書の紛失を防ぐことも可能となります。
領収書は電子データでの管理と保管が認められています。そのため、紙で受け取った領収書をスキャンし、電子データにして保管することが可能です(紙で受け取った領収書を破棄するためには、電子帳簿保存法のスキャナ保存の要件を満たす必要があります)。また、電子帳簿保存法の改正により、2024年1月1日以降に電子メールなどで受領した領収書はそのまま電子保管することが義務付けられました。これまで、「電子データで受領した領収書を印刷して保存する」という方法を採用していた場合、2024年1月1日以降は電子データで受け取った領収書を印刷して紙で保存する方法が認められなくなりますのでご注意ください(※)。
※2022年12月時点の情報
領収書を電子化して管理するメリットは、大きく分けて4つあります。どれも「経理業務の効率化が図れる」という点で共通しています。以下で、詳しく解説します。
紙で管理する場合は、領収書をスクラップブックやノートに貼付するため非常に時間がかかります。また、のりがはみ出て違う領収書が上に貼り付き、剥がすと字が読めないといった経験のある経理担当者も多いはずです。せっかく貼付しても、年数が経つとはがれてしまい、領収書の紛失が発生することもあるでしょう。
領収書を電子化すれば、そのような手間や紛失のリスクから解放されるだけではなく、クラウド上のサーバーを利用して一元管理が可能になります。
電子データならファイル名で検索でき、過去のデータも容易に探せます。必要なときにすぐ確認できるため、税務調査でもスムーズに証拠書類として提示が可能です。経理担当者が複数人おり、それぞれが異なる領収書を処理していても、最終的な保管場所は同じなので誰でも自由に確認することができます。
また、ファイル名について社内で一定の法則を決めておけば、保管者と閲覧者が異なってもすぐ見つけられるでしょう。
感熱紙が使用されている領収書は、時間の経過とともに字が消えてしまうことも珍しくありません。しかし、電子データなら字が消える心配がないため、領収書はキレイなまま保管できます。法人では電子帳簿保存法による領収書の保管が最低でも7年必要ですが、一度保管してしまえば後の心配は必要ありません。
紙での保存には保管スペースが必要です。業種によっては保管しなければならない書類の量が多く、資料保管用の場所を設けている事業者もあります。また、段ボールに保管して積み上げているため、過去の領収書がすぐに見つけられないということもあるでしょう。電子データなら保管スペースが不要になり、これまで保管に使用していた場所は他の用途に使えます。
領収書を「電子データで受け取った場合」と「紙で受け取った領収書をスキャンしてデータ化する場合」で注意点が異なります。どちらも電子データとして認められるには、電子帳簿保存法による保存要件を満たしていなければなりません。ここでは、それぞれの保存方法の注意点について解説します。
改正電子帳簿保存法では、電子データで受け取った領収書を紙へ出力して保存する方法が認められていません(※)。電子メール本文に取引内容が記載されている場合は電子メールを、領収書が電子メールに添付されている場合は添付された領収書のファイルを、それぞれ電子帳簿保存法に定められた要件に従って保存する必要があります。
※2022年12月時点の情報
紙で受け取った領収書を電子化して保存する場合、原本を破棄するためには保存の方法等が電子帳簿保存法のスキャナ保存に定める要件を満たしている必要があります。スキャナ保存に定める要件を満たさない状態で原本を破棄してしまわないようご注意ください。なお、電子データ化した上に紙を残しておいては電子化のメリットが減ってしまうため、スキャナ保存の要件を満たして紙原本を破棄することがおすすめです。
また、電子帳簿保存法の改正以前は電子化した領収書にタイムスタンプの付与が必要であり、この点がスキャナ保存を導入する際のハードルになっていました。これが、2022年1月1日以降に行われたスキャナ保存については一定の要件を満たせばタイムスタンプの付与が不要となり、スキャナ保存を導入しやすくなりました。「一定の要件」とは、アップロードした領収書データの訂正削除を行うことができない、もしくは訂正削除を行った場合の記録が残るクラウドシステムに領収書をアップロードすることなどです。
「楽楽明細」は領収書や請求書など、あらゆる帳票を電子発行できるクラウド型のシステムです。電子帳簿保存法にも対応しており、発行した電子領収書等の原本の控えをそのまま電子で一元管理できます。また、前述の通り緩和されたタイムスタンプの要件を充足するには、システム内で訂正・削除履歴が確保できなければなりません。そのため、システムを導入して、一連の流れの中で自然に要件を満たす方法をおすすめします。
領収書の管理は、改正電子帳簿保存法の影響を受けて要件が細かく規定されています。全ての要件を満たすためには、システムを導入することが効率的な方法でしょう。システムに任せてしまえば、ヒューマンエラーも防止できます。効率的かつ的確な領収書の管理に向け、早めの準備をおすすめします。
税理士(名古屋税理士会)。2017年の税理士試験で官報合格。
法人及び個人の確定申告書作成、協会における相談対応、Webメディアでの記事執筆や監修などの経験を有する。川口拓哉税理士事務所代表。
川口拓哉税理士事務所※ 月の発行件数500件の場合の月間の導入効果(ラクス調べ)
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おかげ様でラクスグループのサービスは、のべ83,000社以上のご契約をいただいています(※2024年3月末現在)。「楽楽明細」は、株式会社ラクスの登録商標です。
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